厚顔無恥

世の中に存在する仕事は一様にサービス業の側面を持っている。

顧客に対して何かしらの労働を提供しその対価を得ているのだから、広義の意味で、ほぼ全ての仕事はサービス業といっても過言ではないだろう。
労働と対価の循環が経済を形作り、その環の中で人は人生を生きているのだ。

顧客は支払った対価に見合ったサービスを要求するのは当たり前であり、提供されたそれに不満や疑問を持ったのなら、クレームや苦言を呈するのも当然である。
提供されたサービスが想像・期待していたよりはるかに劣るものであれば、劣化のごとき抗議やクレームにより、その場が炎上するのも致し方ない。

だが・・・・・。
津波のように押し寄せられた猛抗議やクレームが、カスタマー・ハラスメントと呼ばれるいわれなき理不尽なものであった場合はどうなのだろう?
日々の生活を送る中、サービス業に携わるスタッフの人達が理不尽極まりないハラスメントを受けながらも、対価という人質をとられているため、ジッと忍の一字で耐え忍ぶ姿をよく見かける。

「俺の頼んだ料理がちっとも来ない、お前らは仕事してんのか?!」
「となりのテーブルの方が揚げ物が大きい!」
「質問に即答できず、私の時間を無駄にしたお前はスタッフとして無能だ!」
「ホテルのフロントスタッフなのに英語が喋れないのはどうなってんだ!」
「とにかく態度が気に入らない、いいから謝罪しろ!」
「◯◯はサービスに含まれてんじゃないのかよ?こっちはそのつもりで来たんだ、いいからサービスしろよ!」

客がスタッフに浴びせかける罵詈雑言の嵐。いいかがり、もしくは八つ当たりとしか思えない。
確かにスタッフの対応が悪く怒られても仕方ない場合もあるとしても、それでも言い方ってものがあるだろう。
金を払っていれば何を言ってもやっても許されるのか?
何も言い返せないサービス提供者には、彼らの尊厳を踏みにじるような言動を、怒りに任せて浴びせかけても当然と考えているのだろうか?

ため息しか出ない。
自分がサービスを提供する側に立ったときのことを考えたりしないのだろうか?
完全に立場が逆転し、たった今、サービス提供者に浴びせかけたような言動や態度を受けた時、果たしてそれに耐えうるだけの広い心を持ち合わせているのか怪しいものだ。

カスハラと呼ばれる行為は、絶対に反撃されることがないという安全地帯から、立場の弱い者に対して全力フルモーションで石を投げつける行為に等しい。
身の安全が保証されているからこそ、大胆かつ冷酷、そして非情な態度を取れるのだ。

無理難題をふっかけ、自分の嗜虐的な欲求を満たして越に入っている連中よ。
お前たちの心は貧しく、浅ましく、そして醜い。
子供の頃に親から教育されなかったのだろうか?
自分がされたら嫌なことは他人にはしてはならないと。

今日、ファミレスでランチを楽しんでいる最中、隣のテーブル席からの怒号が店内中に響き渡った。
否応なしに耳に入ってくる話を聞いてみると、どうやらスタッフの態度や食事提供のタイミングとオーダーミスが気に入らないらしく、完全にブチ切れてしまったらしい。
ささやかなランチタイムの楽しみも、彼が発する大きなダミ声ですっかり興ざめしてしまった。こっちこそ、貴重なランチタイムのひとときを返してほしいと怒鳴りつけてやりたかった。

立場が逆転した場合、こういう手合は、自制心のブレーカーのアンペアが小さいのだから、すぐに逆ギレして客に殴りかかったりするのだろう。
それとも、日頃から溜めに溜め続けた鬱積を、客の立場に立った時に発散しているのかもしれない。

どちらにしてもみっともない。
年令を重ね、酸いも甘いも噛み分けたであろう分別のある大人ほど、男女の差なくカスタマー至上主義を錦の御旗にし、横暴な態度に出てしまう。
世知辛えなぁ~・・・・・。
いい年こいて、などというセリフは言うのも聞くのも大嫌いなのだが、こと、こういう場面に遭遇すると頭を過ってしまう。
「いったいどんな人生歩んでいると、こうも歪んだ大人になるのだろう。いい歳なんだからもっと余裕持てよ」と。

今の世の中、物価の上昇は止まらぬ反面、もらえる給料は横ばい状態がつづき、とかくストレスフルでイライラが募るばかりだけれど、もっと他人を思いやる心の余裕を持ったほうが、実は自分も幸せを感じられるのだ思う。
心に余白がないから、イライラをそっとしまえるスペースがないのではないだろうか?

妻が私に執拗に辛くあたり、罵詈雑言をくりかえす家庭内ハラスメントの覇者となっているのは、ひとえに心に余白がないからだと思いたい。


いやそうだ、きっとそうなのだ。


貪るように視聴している韓ドラ、きっと心は作品の続きのことで一杯なのだろう。
その中のちょっとだけでもいいから、隙間を作って私のことを考えてる余裕を持ってくれば、今よりもっともっと見える世界が色づくだろうとと思っているのは、きっと私だけなのだろう。

ファミレスで怒号をあげているおっさんの顔が、ちょっとだけ妻と重なった夜でした。

 




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