同調圧力により爆誕した「正義マン」

街は既に「北斗の拳」化している

日増しに増加の一途をたどるコロナウィルス感染者数の脅威と、本格的に発出された政府からの外出自粛要請により、街は「北斗の拳」のごとき世紀末感を見せている。

私が住んでいる神奈川のクソ田舎でさえ、さまざまな商業施設の自主休業が相次いでいるのだ。
普通にしていても閑散として寂しい街だというのに、更に人影がまばらになり、まさにゴーストタウン一歩手前の限界集落の様相を呈している。

シャッターが降ろされた店が左右に立ち並び、その真中には真っ直ぐな歩道が広がっている。
そこには誰もいない。時の流れが止まってしまっているかのようだ。
色鮮やかな電飾付きの立て看板、「いらっしゃいませ」と書かれた軒先ののぼり。それらが爽やかな風にあおられ、ほんの少しだけ動いている。
当たり前のように感じられる人間が作る喧騒、人々が行き交う空気感、それらがスッポリと眼の前の空間から切り取られてしまっているのだ。燦々とした陽光に歩道が照らされていればいるだけ、その激しいコントラストのギャッブに違和感が膨れ上がる。
まだ子供だった昭和時代に見た、正月三ヶ日の光景が再び繰り広げられているのだ。

整然と整備された街並みに、本来あるべき人の姿とその気配がまるで無い。
何かの魔法にかけられ、自分だけが無人の異世界に飛ばされてしまったかのような感覚。
激しく全身からこみ上げてくる孤独感、焦燥感、そして恐怖におののき、正月のお休みという楽しい気分もそこそこに、小学生だった私は自転車のペダルを懸命に漕ぎ、自宅へ一心不乱に帰宅したことを思い出した。

街自体は生きていて呼吸感さえ感じられる。
だが、その中に確実に必要な、人の存在感や影を全く感じられなかったとき、際限のない孤独という名の恐怖を感じたのである。

飲み込まれそうな孤独感を経験して以来、私は正月三が日に街に繰り出すことを止めていた。
コンビニエンスストアの登場により、24時間、年中無休のサービスが当たり前になるその日まで。
誰も居ない街というのは、それだけ人の心に何かしらかの恐怖を植え付けるものなのだ。

KY?忖度? ソレって同調圧力でしょ?

街から人が消え、外出自粛要請が発令されたこともあり、ここ数週間は自宅で軟禁状態のような週末を過ごしている。インドアの環境で「できる事」が枯渇してしまっているゆえ、どうしてもネットの世界を徘徊する時間が増えてしまうのは仕方がない。

そんな中、「正義マン」と呼ばれる人間がSNSで多数現れていると聞いた。

外出自粛ムードの中、我関せずとしてパチンコやカラオケなどの遊興施設に出入りしたり、深夜にまでおよぶ飲酒をしている人間を、SNSで徹底的に糾弾している人間のことをいうらしい。

日本人は同調圧力を好む人種だと個人的に思っている。
皆と同じであることで安心し、皆と同じでないと不安になり焦るのだ。
過日のトイレットペーパー買い占めが良い例であろう。
皆が並んでトイレットペーパーを買い漁る光景を見て、そうしなければ自分だけが買いそびれて困ることになる、そう思い込んでいるだけなのだ。
それがデマだと薄々理解していたとしても。

現在、多くの人が自重という言葉にすり替えられた「我慢」を強いられている。自分が我慢しているのだから、他の人も我慢して当然。誰かが勝手な行動をし、外出という自由を享楽することなど許せんというものだ。

しかし、どんな状況になっても、守るべき行動規範に従えない人間はいるものなのだ。
これはもう、どうしようもないであろう。外出自粛要請はあくまでもお願いベースだ。強制力も何もなく、規則の守れない行動には罰則を与えないのだから、好きに行動する人間は必ず出てくる。

自重することのできない人間については、もう勝手にしろと言いたいのが本音である。いくら回りや世間がとやかく言おうが、享楽を追求する他人の行動を抑制することなど、個人ではできる訳もなく、またする気もない。
万が一、その人間がコロナウィルスに感染し、重篤な症状になったとしても自業自得なのだ。リスクを省みず一時的な享楽を謳歌したのだ、致し方あるまい。
他人への感染源にだけはならないよう、祈るばかりだが・・・・・。

だが、外出して楽しんでいる人間をスマホで撮影し、それをSNSなどで投稿、さらし者にして非国民扱いするのはいかがなものだろうか。
まるで、スマホとSNSを武器にした秘密警察のようだ、といったら言い過ぎだろうか。

空気を読む、忖度する、それは日本国民が大好きな同調圧力から生まれた行動様式であり、欧米諸国の人間からすると理解できないものなのだろう。
「正義マン」も、紛れもなく同調圧力から爆誕した謎のヒーローなのだと思う。

自重することが、今できる最善の策であることはいうまでもない。
自分は自分であり、他人の行動などどうでも良いのだ。
自分が感染せぬよう、また、他人に感染させぬよう、今は自分の行動を律する以外にやりようがないのだ。

しかし、ふと考えてみると、不要不急な外出をしている人間を撮影している「正義マン」は、同じく不要不急な外出をしていることにならないのだろうか?
そもそも外出を自粛していたら、外出をしている人間を撮影してSNSにポストすることなどできないと思うのだが。

謎のヒーロー「正義マン」が、一日も早くこの世から居なくなることを願って止まない。


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