なにも起きなくて、夏

2025年の7月も半分が経過しようとしている。

つい最近メディアで取り上げられ、瞬く間に流布された恐怖の予言についてご存知の方も多くいるだろう。
そう、2025年7月5日の午前4時、とてつもない災厄が関東地方に襲いかかるというアレだ。
(フィリピン海沖で海底火山の爆発かなにかで大地震が起き、その余波で大津波が襲いかかるというものだ)
C国のとある動画配信者が偶然、予知夢を描いた漫画をどこかから発掘し、「コレはとんでもない予言書だ!」と騒ぎ立てたことから端を発した今回の騒動。
インバウンド需要に陰りが見え始めた矢先、7月の訪日外国客がガクンと目に見えて減少したのも、これが原因であると言われている。(本当か?)

予言書と噂されたのは、たつき諒という女性漫画家が予知夢の内容を描いた「私が見た未来」である。
前世紀末に空言のブームを巻き起こしたノストラダムスの大予言に近いノリではあるのだが、今回は具体性が天と地ほどの差があった。

単行本の初版は1999年。
世紀末の予言書ブームの最中にあったが、特段メディアで取り上げられた記憶は私の中には全く無かった。
だが、その単行本の表紙には「大災害は2011年3月」としっかり記載されていたのだ。
これが後年、東日本大震災発生の年月とピタリと符号することから話題性となり、絶版となっていた単行本は一時的に取引金額が10万円を超える高値をつけることとなる。

そして、2021年10月に復刻・改定された「私が見た未来 完全版」が発売され、その中に2025年7月に日本地図が変わるほどの大災害が起こると予言されていたのだ。
都市伝説的に2025年7月5日午前4時18分という超具体的な日時まで示された予言、これは相当にインパクトがあり、ホラー系Youtuber達によって煽るだけ煽られる動画が作成され、ものすごい再生数を稼ぎ出したのも記憶に新しい。

わかってはいた。
きっと何事も起こらず、平穏無事な日々が7月5日以降も続くであろうことは。
だが、この予言ビッグウェーブに乗るつもりで、神奈川の沿岸地域に住居する私は当日の脱出を試みたのだ。
こんなアホみたいなきっかけが無いと、家族旅行に行きたくても散財するための理由をひねり出せず、我が家の恐怖の大王である妻からの資金拠出の許可がでないからだ。

今回、外国人が行ってみたいと渇望する日本屈指の温泉である「草津」への逃避行が承認された。
予算は15万。
今までケチりにケチった倹約生活から絞り出すように絞り出し、子どものいない我が家に加え、我が母が目に入れても痛くない孫たちがいる、妹家族も同行してもらうという大盤振る舞いの旅行を企画した。

硫黄が香り湯花の咲き誇る草津温泉は素晴らしかった。
生まれて始めてみる壮大な湯畑と、そこを滾々と流れる源泉の圧倒的な湯量に感動した。
日が落ちカラフルにライトアップされた湯畑はとにかく幻想的で素晴らしかった。
源泉の熱と夏の大気が絡み合い、むせ返るような高圧な熱さを忘れさせ、しばし見入ってしまう程だった。
また、大奮発の大盤振る舞いコンコンチキで予約をした宿も、これまた食事が素晴らしかった。日頃から格安スーパーのご奉仕品を最上のおかずとしていた日々を、むしり取っては意識の後方に捨て去るほどの格別の味わいだった。

旅行に行ってまで倹約生活などもってのほか。
妻からの「財布の中身は気にするな、スッカラカンになるまで使い倒すがいい!」の号令のもと、とにかくご当地グルメをこれでもか!と味わい尽くした2日間だった。
(財布の中には五千円札が一枚しか入っておらず、それ以上の費用は完全に私のお小遣いから拠出という、不条理極まりない仕打ちは旅行の楽しさで帳消しとする)

往復の車の運転時間はゆうに12時間近く。
疲れを癒やしに温泉に浸かったのか、疲れに行くために温泉に行ったのか判然としなかったが、こうして我が家の草津温泉旅行は平穏無事に災害や事故にあうこともなく終了した。

なにもなかった。
これが一番よい。
不安や猜疑心を煽られるような予言はゴメンだが、こんな素敵な家族旅行をするための口実として使うならよいではないか。
お金は貯めるばかりではなく、死ぬまで色褪せない経験と記憶のために使うべきなのである。

 
ここのところは予言系の動画はさっぱりアップされなくなっていたが(そりゃそうだろう、思いっきり5日はすぎちゃったんだから)、こんなキャプションのついた動画のサムネイルがPC画面に現れた。


「予言の日は7月5日ではなかった!作者は具体的な日付を書いておらず、災害は7月中に起こる!」

やれやれ・・・・・・。
我が家には今後一年以上の家族旅行のための資金はないのである。
どこへ逃げろというのか?(笑)


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