意識高い系はミスディレクション(その1)

みんなスターバックスが大好き

会社を出発する時間を読み間違え、約束の時間より30分も早く到着してしまった品川駅。

ランチタイムも終わり、少しだけ穏やかな空気と時間が流れ、コンコースを行き交う人の流れも心なしかゆっくりと感じられる14時30分。

案件に関する問い合わせメールをいただいた方と面会を果たすため、空いているテーブル席を確保してからコートを脱ぐ。それをカバンと共に椅子の上に置きながらスマホの画面を確認し、ようやく一息つくことができた。
まだ電話もメールの着信もない。

ここはスターバックスコーヒー・品川駅店。

新幹線改札口のすぐ隣りにある、スキップフロアの店舗である。
毎日のように通勤で品川駅を利用しているのに、この店舗に立ち寄ったことはほとんどなかった。
東海道線のホームを上がると、改札口を出ることなく、そのまま山手線のホームへ下りてしまう。
帰宅時はその逆だ。

うっかりしていると入り口を見逃してしまうほど分かりにくいのだが、それが逆に、巨大ターミナル駅で、隠れ家的雰囲気を出すのに一役買っていると思うのは私だけだろうか?

昼下がりの店内は、駅構内同様の落ち着きを見せており、テーブルに残る2つの小さな水のリングが、先ほどまでこの席に誰かが座っていたことを告げている。
場所がら有閑マダムの優雅なランチは連想できず、新幹線の発車時間を待ちながらランチを摂っているビジネスマンの姿を想像した。

時間に追われてのランチタイムというのは実に味気ない。食事を味わう前に、時計の動きばかりが気になってしまい集中できないからだ。
手に取ることのできない「時間」を無理やり数値単位で区切り、「スケジュール」と名付けた枠組みの中を忙しなく行動することで安心を手に入れる現代人。
せめて、人間の三大欲求の一つである「食欲」を満たす時間くらい、時計に支配されずゆっくりと味わいたいと常に思っている。

早食いは太るからだ。

私がちっともダイエットに成功しない最大要因の一つであり、最も克服することが困難な行動様式の一つでもある。
一度でも脳内で「美味しい!」が覚醒すると、エヴァ初号機の如く「食欲」が暴走を始める。
脳内から消失したレプチンは、何をもってしてもサルベージすることが難しいのだ。
エントリー・プラグは射出できず、アンビリカル・ケーブルも抜くことはできない。

とりあえずはオーダーを

テーブル席に一人黙って座するアラフィフおやじ。

ビジュアル的に非常に見苦しい事この上なく、下手をすると、「会社からリストラされた事を家族に告白できず、一人夕方までハロワ巡礼に明け暮れている自殺一歩手前さん」に間違えられないとも限らないので、急いでカウンターにオーダーを済ませにいく。

改札口からここまで来る間にすっかり身体は冷え切ってしまったが、店内の程よい暖房と大きな窓から注ぐ太陽光で一気に体温が上がった。ゆるゆると筋肉の強張りが解けていく。
しかし・・・・・身体の緊張がほぐれ、筋肉の弛緩が始まると同時に放屁したくなるのは何故なのだろう?

会社から帰宅し、キンキンに冷え切った身体をコタツにダイブさせしばらくすると、全身の血流が徐々に蘇ってくる。それと同時、武田真治が首を締められ、頭を左右に激しく揺さぶられた状態でのみ演奏するであろう、とんでもないダーティーサウンドが肛門サックスから漏れ出てしまう。

「しぶぶぶぶぶぶぶ~!」。

気体以外の何物かが体外噴出するような、大気を震わせる音色を尻肉が奏で始めると、Yoshikiが踏み散らかすツーバスをも凌駕するケリが、コタツの中で容赦なく私の全身に襲いかかるのだ。
妻がこれほどまでのハードなドラミング・テクニックの持ち主だと了得したのは、結婚してから初めての冬を迎えた時だった。

「なんて汚い音なの!信じられない!!しかも吐き気がする!!!臭いぃ!!!!」。
時と場所と臭いが違うだけで、キミだって同じものを俺と同じところから出してるでしょうが!と田中邦衛ばりに叫んでみたところで、妻からの800ビートの攻撃は止むことを知らない。

妻の怒りが収まるまで、X Japan史上最速のスピードを誇る名曲、「Stab me in the back」の演奏が東京ドームに姿をかえた我が家のコタツの中で繰り広げらるのだ。
スッテン・スッテン、ドコドコドコドコドコドコドコドコ・・・・・・。

スタバあるある

生まれて初めてスタバでコーヒーをオーダーした際、とんでもない赤っ恥をかかされたのはカップサイズを確認された時だ。スタバージンだった私は、たった一杯のコーヒーすらまともにオーダーが出来なかったのである。
遥か時が過ぎ令和を迎えた現在も、あの屈辱だけは忘れられない。

店員:「カップのサイズはいかがいたしましょう?」
五郎:「あ~・・・・・じゃ、Lサイズで」
店員:「こちらではLサイズのご用意はないのですが・・・・・」
五郎:「じゃあ普通ので」
店員:「当店でのコーヒーサイズは、ショート、トール、グランデ、ベンディの4種類でございます」
五郎:「じゃあ普通ので・・・・・」
店員:「はい、トールサイズですね」
五郎:「いや、普通ので・・・・・」

って、最初っから普通サイズでって言ってんじゃねぇかよ!
お前らはS、M、L、LLじゃ通じねぇほどアメリカンなのかよ?!と心の中で絶叫するも、全身を包み込むのは強烈な疎外感とアウェー感。
オーダーが終わっても感じられない達成感。

だいたい、カップサイズを表すグランデ、ベンディなどという単語は、日常生活でまったく馴染みなどなく、聞いたことすらなかった。さらに、それらがどのくらいの容量を表しているのかなど見当もつかなかったのだ。
レジでアタフタして気が付けば、「おっさんがスタバでカッコつけてコーヒーなんて頼んでんじゃねぇよ!」的な視線を持つJK2人組からの舌打ちで血祭。

と、こんな恨み節を妻にしても、「呆れちゃう、その当時だってグランデやベンディを知らない人の方が少なかったわよ」と、鼻で笑われてしまった。
本当だろうか?初めてベンディサイズのカップを見た時は、正直、「冗談だろ?」と軽くめまいを覚えるほどのビッグサイズだったのに・・・・・。
グランデとベンディは、スタバが日本上陸を果たしてからというもの、スタンダードなカップサイズとして日本国民に認知されたのだろうか?
少なくとも、神奈川県のクソ田舎に生息する人間の共通認識ではなかったとハッキリ断言できる。多分・・・・・。

やっぱりドトールが好き

よくよく考えたら、私はスタバでもタリーズでもベローチェでもプロントでもなく、カフェといったら学生時代からドトールコーヒー一択だったのだ。
ドトールコーヒーには七面倒臭いカップサイズ設定など無いし、普通サイズをオーダーすれば、Mサイズの飲み物が勝手に出てくるのだ。ついでに言えば、看板メニューである「ジャーマンドック」ならば軽く10本はイケる。
あれを初めて食べた時、懐かしのハンブルクまで浪漫飛行に連れ出してインザスカイだったのである。
カールスモーキー石井に会ったことはなく、もちろん、ドイツのハンブルクに訪れた事が一度もない事など、賢明な読者なら既にお気づきのはずだ。

「ハニー・ルイボスティー・ラテ」などという、名前だけでどんな飲み物が出てくるか想像できないメニューはドトールに存在しないのだ。

スターバックスコーヒージャパン様、東京五輪を機に、この際なので考えを改めてはいただけないだろうか?

そんなどうしようもない事を考えていると、見込客らからの着信を知らせる乾いたサウンドが、テーブルの上でリフレインするとともに、私のスマホを震わせたのである。


今回は疲れたので、つづきは次回で!

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