トイレの神様

トイレには神様がいる。絶対にいる。

汚いトイレがキライだ。

こと女性に対し、アレコレと注文をつけられる男などではないことは重々承知しているが、それでも、モノを食すときクチャクチャと音を立てる女性と同じくらい、汚れたトイレがキライなのだ。
(女性の咀嚼音とトイレを同列に比較するとはなにごと、というフェミニンな指摘はどスルー)
汚れたトイレが大好き!という、ト変態な性癖をお持ちの方と話が合わないのは仕方がないとはいえ、トイレを汚れたまま放置しておいて、良いことなど一つもないのである。

断言できる、トイレには神様がいるのだ。絶対に。

2010年の初春、FM Tokyoの番組から爆誕した大ヒット曲「トイレの神様」。
その歌詞の中でも、「トイレにはキレイな女神様がいて、べっぴんさんになりたきゃ毎日ピカピカにトイレを掃除せよ」と、コンポーザーである植村花菜嬢も説いているではないか。
「あなたが芸術的に個性的な顔面を有しているのは、手を抜いてトイレの掃除をしているからなのである。」
と、ギレン・ザビのように妻の前で演説を打ってみたのだが、鉄拳とシンバル・キックという、ソーラ・レイにも匹敵する圧倒的な無言の暴力で、我がジオン公国があえなく敗れ去ったのは公然の秘密である。

その演説後、2日間に渡り兵糧攻めにあったのも公然の秘密である。
真実をクチにしても、決して麒麟は来ないのだ。

築10年以上が経過し、家のあちこちに目に見えるガタは来ているのだが、先の演説の後、トイレだけは自分で綺麗にしようとマメな掃除を心がけている。
リビングやその他の部屋、家のあらゆる場所の建築部材費はケチりにケチったのだが、トイレだけには金をかけたつもりだ。(かけたつもりであるので、実際にはかかっていないかもしれない)
格調高いパチモンの大理石風の床材を惜しげもなく使い、後々の掃除が大変になることなど気づくことなく、ミニ洗面台までつけてしまったのだ。
ジメジメした梅雨時など、排水口辺りにヌメヌメとした赤カビが発生し、それを見るだけでゲンナリする。キッチンのカビ取り専用漂白剤をもってしても、この赤カビはしつこく発生する。
いくらやっても際限なく発生するので、掃除するたびに発狂寸前である。

床の隅には隠れるように綿ボコリが溜まり、イギリス製のサイクロン掃除機の吸引力をもってしても取り切れない。サイクロン掃除機もパチモンであるが故、その吸引力も甚だ怪しい。
トイレ用のウェットシートをこより状にし、床を舐めるようにして這いつくばり、丁寧にぬぐっても取れないのだ。先日の掃除のときなど、気づかぬうちに顔を床に擦り付けてしまっていた。
もちろん、ウェットシートで床面を拭き上げる前にだ。

それでもトイレはキレイに掃除をする。
艱難辛苦を乗り越えてでもキレイな状態をキープしておきたいのは、トイレをキレイにしておけば運が開けるとか、金運がアップするなどという、手っ取り早く簡単にラッキーを手に入れようと神頼みにすがっているわけでは決してない。

断じて無い・・・・・のである。

どうしても我慢できない

入浴後に用を足す。
これは本当にイヤだ。汚れたトイレの次にイヤだ。

何がイヤかと言うと、思いっきり損した気分になってしまうからだ。
せっかくお風呂でピカピカに磨き上げたダラしないこの身体。これを汚すことなくパジャマで包んだら、そのままクリーンな状態でオフトゥンにインしたいのだ。パッと見で薄汚いおっさんであるからして、せめて風呂上がりくらいは小綺麗な身体で就寝したいと思ってしまう。

そんな私であるからして、トイレ掃除の最中、今まさに綺麗にしている最中に用を足すなど考えられない。そんな愚行に出るくらいなら、一旦その手を止め、歩いて10秒の目の前にあるコンビニエンスストアのトイレをシレっと借りたほうがマシだと思ってしまうのだ。

だが、先日来からの強烈な寒波は容赦がなかった。
我が膀胱をキリキリと締め上げ、それほど容量のないタンクの蛇口を今すぐ開けよ!と、急襲につぐ急襲で私を襲ってきたのだ。
すぐ目の前、歩いて10秒の場所にコンビニエンスストアがあるにしろ、疾風怒濤の尿意には可及的速やかに対応しなくては、パチモン大理石の床に黄色い水たまりを作ってしまうことになる。

片手に使い捨てのトイレブラシ。片手にウェットシート。
丸出しの下半身。窓から入り込む刃物のような鋭利で冷たい風。
それに煽られ、プルっと震える我が尻肉。

シュール過ぎる。
これほどおぞましくも悲しい絵面が他にあるだろうか?
だが、一度体内から放り出してしまった液体を止めることなど出来はしない。満足の行くまで、最後の一滴まで絞り出した後でふと我に返る。

あ~・・・・・もうヤル気しねぇ。

そこからはテンションが目に見えて分かるほどダダ下がりしてしまい、あれだけ無心に掃除していた手の動きがピタっと止まってしまった。

気力を振り絞り最後まで掃除を終えることができたが、この何ともやるせなく、切ない気持ちの持っていき場所が便器しかなかったのは笑うに笑えない。

トイレの神様に誓う。
トイレ掃除は用をしっかり足した後にする、と。

緊急事態宣言が再び発令され、外出はしっかりキッチりと我慢していたのに・・・・・。
この寒空での溢れ出る尿意を、トイレ掃除が終わるまで自粛するワケにはいかなかったのである。
 



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