春がキライ

冬は終わった

また今年もこの時期がやってきた。

気がつけば、刃物のような鋭い大気の冷たさはどこかへ遠のき、ホクホクのおばあちゃんの笑顔のような、ポッと心に火が灯るような温もりを太陽光線から感じられるようになってきた。
ついこの間までは寒くてなかなか寝付けなかったが、最近はベッドに入ってもすんなりと寝れる。
足元の冷え対策に使っていた湯たんぽも、入れてからしばらくすると熱が籠もってしまうようになり、今年はようやくお役御免となった。
ようやくだ・・・・・ようやく寒さから開放される。もう寒いのはお腹いっぱい味わったのだ。
今年の年末あたりまでどこかで大人しくしていて欲しい。

だがしかし。
冬が終わり、春の到来を喜ぶのもつかの間。
この時期には、この時期なりの悩み事があったのだ。

春の悩み

もうかれこれ30年以上も花粉症と激闘を交わしている。
暖かくなってきたのは嬉しいのだが、この時期から容赦なく始まる鼻水大洪水と目の痒みに、再び真冬の氷点下並みにテンションが下がる。

机に向かって仕事をしていても、下を向くと鼻水がボタボタと垂れてきて、それをティッシュで拭う。
数十秒するうちにまた垂れてくる。
それをまた拭う。
・・・・・もう際限がない。

これでは埒が明かぬ!と、両の鼻の穴にティッシュをムンズと詰め込む。
目一杯にティッシュを詰め込み、通常の倍以上に膨れ上がった鼻の穴。
当然、鼻呼吸は出来ないので、必然的に口呼吸になる。

まだまだ空気が乾燥している時期なので、長時間の口呼吸はボディーブローのように、ジワジワと喉の粘膜から潤いを奪っていく。
鼻に詰めたティッシュはジットリと濡れているのに、「ハーフー」と口呼吸をする喉はカラッカラ。
喉の痛みを感じて水分をこまめに補給すれば、たちまちトイレが近くなる。
鼻水が出る → 濡れた鼻ティッシュを交換 → 口呼吸 → 喉が渇く → 水分補給 → トイレ。
この地獄絵図が延々と繰り返されるのだ。

私が子供の頃、花粉症などと呼ばれる春の季節病など存在しなかった。
周りを見回しても、春先に風邪をひいてクシャミをする者はいても、延々と湧水のごとく噴き出す鼻水と、目の痒みと充血に悩まされている者など誰一人として居なかった。
暖かくなり、近所の森林公園にワイワイと遊びに言った折など、林立する杉の木の下で、思いっきり春の空気を肺いっぱいに吸い込んだものだった。
今やったら確実に即死状態である。

遠い昭和の頃。
アレルギーなる言葉とその症状を、知識として薄く知ってはいても、自身の身に降りかかることなど1ミリも考えていなかった時期である。
肌の痒みといえば、夏に大汗をかき、脇の下や膝の内側に汗疹が出た際に、シッカロール(今はベビーパウダーと呼ぶらしい)をはたいてもらった程度である。

ちなみに、「これが乙姫様からもらった玉手箱じゃあ~!」と、小学校低学年の妹の顔に思いっきりシッカロールを叩きつけ、コウメ太夫のように真っ白くなった顔を見てゲラゲラ笑うという、どうにも知能が低いとしか思えない遊びを、小学校を卒業する年の夏休みまで続けていた馬鹿太者である。

シッカロールを半分ほど妹にブチまけて、母親から往復ビンタをブチまけられたのは言うまでもない。

ストレスは万病のもと

社会人になり、IT業界でブラックな働き方を強いられるようになった平成の頃から、どうやら私は花粉症に罹患したようなのである。
春になるとやたらと前述のような症状が出る。
最初は風邪かと思っていたのだが、こう毎年同じ時期に風邪をひくのはどうなのか?と、無い頭でも少しは不思議に感じるようになった頃、ようやくこの世に「花粉症」なる病名が認知されるようになったのだ。
(ちなみに、日本で初めて花粉症と診断されたのは1961年らしい。もちろん病名はついていない時代だ)

この病気、スギ花粉などのアレルギー物質に対抗する免疫機能が暴走してしまう事から発症するらしい。
ある一定の許容量を超えると、ダムが決壊するかの如く、人体の免疫機能が暴走するとの見解だが、私の身体は30年も前にそれが起こってしまったのだ。
やっぱりストレスは万病のもとなのだと、今更ながらにしみじみ思う。

花粉症と同時に、アトピー性皮膚炎まで発症するというオマケまでついてきた。
泣ける・・・・・。
幸い、アトピーの方はそれほど症状が酷くなく、身体が温まると少し痒みが出る程度で済んでいる。
だが、これから迎える暑い季節のことを考えると、なんとなく肌が痒くなってくる。
まさにパブロフの犬状態だ。

薬飲みます

先日、TV会議に出席した。
普段はマイクのみ、音声オンリーでOKの会議のはずだったが、何の意図があるのか、今回はカメラを通して疑似対面式の会議の開催となった

在宅勤務であるにも関わらず、私はマスクを着用してソレに臨んだ。
「自宅にいるのになんでマスク?」と、出席者から総ツッコミを入れられる覚悟はしていた。
だが、既に決壊した鼻からはとめどなく鼻水が流れ、両手はマウスとキーボードを操作しなければならず、鼻水を拭いながらの出席は不可能であった。

故に、両方の鼻の穴にこれでもか!と、ティッシュを詰め込んだ顔をマスクで隠したのだ。
苦肉の策とはいえ、現状はこれ以上の良策はないとほくそ笑んでいた。
だが、ただでさえマスク着用は息苦しいのに、それに加え、両方の鼻の穴にはビッチリとティッシュが詰められている。このせいで、息苦しさは会議開始前からマックスを超えていた。
無事に2時間の会議を乗り越えられるか一抹の不安はあったが、やるしかない。
今までも、なんとかこの時期の会議は工夫して乗り越えてきたのだ。
今回もなんとかなると信じていた。

特段、話がこじれることもなく、次々と議題が会議の席上に上っては採決されていく。
順調であった。
会議は終盤にさしかかっていた。
マスクの件については誰からも突っ込まれることはなく、淡々と会議は進んでいく。

普段であれば、「そんなのどうだっていいじゃんかよ、こまけぇ~なぁ」と、うんざりするような細かい指摘を浴びせてくる上司が、今回は不思議と沈黙を守っている。
立て板に水のように淀みなく会議が進行すると、いよいよ最終議題である、今後の課題対応の方法についてに話が移った。

この件についての発言者は私であり、マスクにより若干話しづらい部分はあったのだが、現在上がっている課題についての説明と、どのように対応していくかの方針を話し始めた。
現状分析は出来ている。問題点も明確だ。
自ずと解決策は見えており、どのようなアプローチで対応するか、また、スケジュール的にどのような段取りで進めていくかを説明し始めた時・・・・・。

強烈なクシャミが爆発するようにマスクの中で弾けた。
詰めたティッシュのせいでもあるが、花粉症の症状として、これまたクシャミが出やすくなっていたのは言うまでもない。
突如として、カトちゃんばりのクシャミが止まらなくなったのだ。

「ディエックショイ!」
「ッグしぃぃぃ~!」
「ブエっくす!!」

3発ほど豪快にクシャミを放った後、PCの画面越しから参加者全員の大爆笑が聞こえてきた。

慌ててPCの画面を見てみると、マスクの片耳が外れ、露わになった自分の顔が写っている。
時期外れのトナカイの如く真っ赤になった鼻。
片方だけティッシュが見事にぶっ飛び、おまけに、これまた漫画でしかお目にかかれないような、ドロンとした透明な鼻水がこんにちわ!している。

なるほど、コイツはこういう理由でTV会議なのにも関わらずマスクをしていたのだなと、出席者全員が納得する事態となったのだ。

PCのカメラを手で隠し証拠隠滅を図ったが、時すでに遅し。
見るも無残。アラフィフおやじ鼻汁垂れ流しの図は、インターネット回線に乗り、20名ほどの会議出席者全員の知ることとなったのだ。

あぁ・・・・・こんなことなら早めにかかりつけの医者に行き、内服薬をもらっておけばよかった。
ステイホームでズボラでぐうたらな生活を送っていたツケが、今まさに回ってきたのである。

明日、医者に行ってきます。

っても、もう遅いけど。








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